2024.11.20 横浜地裁判決

11月20日(水)14時30分より開かれた横浜地裁での第五次厚木基地爆音訴訟の判決は私たちの期待を裏切る不当判決となりました。損害賠償請求は一部認められたものの、そのコンターの範囲は大幅に狭められ、飛行差し止めは米軍・自衛隊とも退けられました。

私たちはこの不当判決を是とはせず、臨時総会を開き、高等裁判所への控訴を協議します。

第五次厚木基地爆音訴訟横浜地裁判決を受けて

                        2024年11月20日

                    第五次厚木基地爆音訴訟原告団                 第五次厚木基地爆音訴訟弁護団

 

1 本日、横浜地方裁判所(岡田伸太裁判長)において、判決が言い渡された。  差止請求は、民事訴訟においても行政訴訟においても排斥された。 民事訴訟判決は、岩国移駐前の航空機騒音についてはW75以上の地域について違法性を認め、移駐後については告示コンターではなく、被告が測定し作成した令和2年度分布図を適用して損害賠償を認めるものとした。賠償額はW75で月額5000円とし、W5ごとに5000円を増加し、95W以上の地域については月額2万5000円とした。

他方行政訴訟判決は、基本的に最高裁の判断枠組みに沿って判断し、行政事件訴訟法37条の4に基づく請求の適法性を認めたうえで、自衛隊機運航についての裁量を逸脱、濫用したものとは言えないとして、違法性を否定した。

2 厚木基地では、米軍空母艦載機固定翼機部隊が、平成30年3月に岩国基地への移駐を完了しており、判決は、移駐後の騒音をどのように評価し、原告ら基地周辺住民の被害をどのように認定するかが最大の争点であった。しかし、判決は、岩国移駐後は騒音状況が変化したとする被告国の主張を採用し、被告作成の「令和2年度分布図」に従って厚木基地の騒音を矮小化し、一部地域に限定してのみ、違法性を認定するにとどめた。

本訴訟では、田村明弘横浜国立大学名誉教授が、最新の知見に基づき、日本における各種交通騒音について曝露量と住民反応との関係を明らかにされた。そして、これに基づき、軍用航空機騒音は他の交通騒音と比較して住民のうるささ反応が突出して高いこと、民間航空機との比較においても両者の間には大きな乖離があり、被告国が従前から用いている防衛施設庁方式WECPNLによっては公平な評価をなしえていないこと、住民反応を踏まえて移駐後の厚木基地の騒音を評価すれば、移駐以前のW75以上の地域と同程度かそれ以上の広がりを持つ地域が法的規制の対象とされるべきことを証言された。

しかし判決は、騒音の評価は、物理量のみならず住民の反応に基づいてされなければならないという騒音評価の基本すら誤り、最新の知見に基づいた田村証言によることなく、約50年前に当時の知見に基づいて策定された騒音評価手法を漫然と用い続ける被告国の主張を採用したものであり、極めて不当な判断であり、到底受け入れることはできない。

ただし、損害賠償額については従来の基準を超えてW75以上地域について月額5000円とし、W値が5増えるごとに5000円を加算し、2万5000円まで認めたことは一定の評価をすることができる。

住宅防音工事は、外郭防音工事を施工した住宅については20%としたもののその他は一律10%にとどめている。

3 判決は、民事訴訟、行政訴訟いずれにおいても、自衛隊機及び米軍機の飛行の差止めの訴えを退けた極めて不当な判決である。

自衛隊機差止請求については、民事訴訟においては差止請求が不適法であるとして却下した。

行政訴訟判決においては、訴訟要件としての「重大な損害を生ずるおそれ」を認め、行政訴訟としての審理を適法としたものの、違法性の判断において、第4次訴訟最高裁判決が採った違法性判断基準を無批判に踏襲し、国の岩国基地移駐施策の実施を重要視し、厚木基地の公共性・公益性をいたずらに強調して、深夜・早朝の運航の要否などを具体的に検討することなく違法性を否定しており、判断がずさんに過ぎると言わざるを得ない。

また、米軍機の飛行の差止請求についても、民事訴訟においては、またしても米軍は日本の支配の及ばない第三者であるとのいわゆる「第三者行為論」を踏襲し、民事訴訟においては訴えを棄却した。また、行政訴訟においても、判決は、米軍に対する行政処分の存在すら否定して、訴えを却下した。

領域主権という国際法上の大原則の下で、日本の領域下に行動する米軍は日本国法令の適用を受け、日本は米軍に対し、日本国法令を遵守し、原告ら住民の権利を侵害しないよう求めることができるのであって、第三者行為論を踏襲するのは根本的に誤ってい

る。とりわけ、日米地位協定2条4項(b)が適用され、防衛大臣が滑走路部分の管理権を有する厚木飛行場においてはそのことは明らかである。

しかし、判決は、漫然と、厚木基地1次訴訟最高裁判決が示した「第三者行為論」を踏襲したのである。米軍に対する日本の主権を否定するに等しいものであって、到底容認できるものではない。

4 岩国基地移駐後も、厚木基地では、自衛隊機やヘリコプターが日常的に運航し、米軍ジェット機もしばしば飛来する。ジェット機の飛行回数そのものは減少したが、厚木基地に飛来する航空機騒音について原告らが覚えるうるささ、心身の不調や健康に対する

不安、生活妨害の程度、精神的苦痛、航空機や部品の墜落事故に対する不安は引き続き存在し、被害は継続している。

移駐後の被害を訴える原告の主張に科学的な根拠があることを明らかにしたのが田村教授の証言であった。岩国移駐後の騒音は、なお、日本の社会の状況、社会通念に照らして、法的規制を必要とする実態にある。

裁判所が、国内外の最新の知見と、これを明らかにした田村証言への理解を欠き、今、原告ら基地周辺住民が置かれている騒音状況、航空機騒音により受けている被害を適切に認定しなかったことは、残念でならない。

空母艦載機部隊は、今後、一部がステルス戦闘機F35CとCMV22オスプレイに機種変更すると報じられており、これら新機種の厚木基地への飛来は不可避である。すでに厚木基地ではオスプレイの飛来が増加し、原告らはその特殊な音質に不快感を募らせ、墜落の危険に対する不安をかき立てられている。航空機騒音被害が今後も続くことが予想され、そのこと自体がさらに原告らを苦しめている。

昭和51年9月に第1次訴訟を提訴して以来、すでに48年が経過した。原告ら基地周辺住民はこれまで、団結して、厚木基地航空機騒音被害の解消に取り組んできた。とりわけ、本件第5次訴訟では、田村証言を得、国内外の最新の知見に触れて、今度こそ飛行差止めが実現されるべきとの強い確信を得た。それがかなわなかったことは極めて残念であるが、原告らの願いである「平和で静かな空」を必ず実現しなければならない。そのために、私たちはこの判決を乗り越えて引き続き力を尽くしていく。