10月16日横浜地裁判決
75W値地域の被害を認め
総額27億4600万円の損害賠償の支払いを国へ命令
平成9年12月8日に横浜地裁に提訴して約5年・・・10月16日に判決が言い渡されました。
厚木基地騒音訴訟では初めての、75W値地域の被害を認める内容。また、危険接近論排除、防音工事減額率も2室以降は5%とこれまでにない理想的な判決となりました。

判決要旨をそのまま載せます
第三次厚木基地爆音訴訟 判決要旨            2002・10・16            横浜地裁民事部 岡光民雄裁判長

1  厚木基地周辺のコンター内{W値75以上。加重等価継続感覚騒音レベル(WECPNL)の値。ICAO(国際民間航空機構)によって提唱された航空機騒音の評価の単位。コンターは、W値75の地点を結んでできた等高線}においては、本訴の請求の開始期間である平成6年以降も、多くの航空機騒音が確認されており、その騒音の程度は、自治体騒音測定データ等に照らし激甚であると推認される。  なお、硫黄島訓練施設の官営に伴い、平成6年以降、NLP(米空母艦載機の夜間飛行訓練)の一部の実施場所が同施設に移転し、厚木基地におけるNLPの実施日数・訓練回数は、平成11年までは、大幅に減少されたことが認められる。しかしながら、平成12年は厚木基地におけるNLPの回数は硫黄島におけるよりも多いし、平成6年以降の厚木基地周辺の騒音自体についてみると、年間の騒音回数は、大きく減少していない。したがって、騒音状況をNLPの有無だけで判断するのは相当ではない。  以上のような厚木基地周辺の航空機騒音等による侵害行為の態様とその程度、これにより原告らが生活妨害、睡眠妨害、精神的被害を共通に受けていること、被告が行っている防音対策は、これらの被害に対する抜本的な解決になっていないこと、以上のような諸般の事情を総合して考慮した場合、厚木基地の航空機騒音は原告ら周辺住民に受認限度を越える被害をもたらすもので、被告による厚木基地の設置管理には違法があるといわざるを得ない。

2 そして、判示の諸事情を総合して、航空機騒音環境基準における類型Tの地域(専ら住居の用に供される地域)登類型Uの地域(その他の地域であって通常の生活を保全する必要のある地域)とに区分し、前者においてはW値75の値を越える地域に居住する原告らについて、後者においては同様のW値80の値を超える地域に居住する原告らについて、受認限度を超える被害を受けていると判断する。

3 被告は、米軍の空母ミッドウェーが 横須賀港をいわゆる母港とした昭和49年1月1日以降に転入した者、NLPが開始された昭和57年5月以降に転入した者については、@ 航空機騒音による被害の発生状況についての認識とその容認があったから、特段の事情がない限り、被告の免責をみとめるべきである、A 仮に、航空機騒音の存在について容認していなかってとしても、上記騒音についての認識を有し、あるいは過失によりこれを認識しないで転居してきた者については、損害賠償額の認定に当たっては相当額の減額をすべきである、等と主張する。  厚木の存在や航空機騒音の存在をある程度知っていた原告らがあることは認められるが、騒音の発生状況に常態制、定期制がないことに照らせば、原告らが入居する前に、騒音の実態について、正確に把握することは極めて困難であり、また、原告らがコンター内に転入した理由は、仕事や家庭の事情に基づくものであり、少なくとも被害を積極的に容認するような動機は認められない。そうすると、これらの原告らに免責の法理としての危険への接近の理論を適用する前提を欠く。一旦コンター外に転居後に再転入した者や、コンター内で移動した者についても、同様に判断されるべきである。また、これらの事情等に照らすと、これらの原告らに減額の法理としての危険への接近の理論を適用することも相当ではない。

4 原告らのうち、コンター内における居住の立証のない者、被害があることの立証のない者及び、居住地域(類型UW値75)からみて被害が、受忍限度内と判断される者の合計16名については、その請求は理由がない。  また、裁判所が要請し、原告らも提出することについて了承したにもかかわらず、特段の事情もないのに所定の陳述書を提出しない原告らについては、同書証を提出した者と比較して、損害賠償額を減額するのが相当であり、30%を減額する。

5 口頭弁論終結後の将来の請求の判断に当たって考慮すべき事情は将来変動すると予想されるから、同請求は、不適法として却下されるべきである。

6 その結果、当初原告5078名、取り下げをした原告を除く残存原告数4951名(このうち死亡した原告については、訴訟継承に伴う増減を便宜考慮せず、各1名として計算した数である。)、請求権棄却原告数16名(上記4前段)、認容額総額は約27億4600万円である。 
    
横浜地裁判決に際しての声明
本日午前10時30分、横浜地裁第1民事部において、厚木基地爆音第 3次訴訟における第1審判決が言い渡された。
@ 厚木基地周辺にあって航空機騒音に苦しんできた被害地域のうち、 われわれが救済を求めてきたWECPNL75以上の地域につき(準工 業地域等の地域類型Uを除く)、航空機騒音の程度が受忍限度を超え、 違法であることが、厚木基地訴訟運動史上初めて認められた。
A また、中途から騒音被害地域に転入ないし地域内移動をした原告に は損害賠償を認めるべきではないという被告の「危険への接近」の主張 はほぼ全面的に退けられ、住宅防音工事助成による減額も1室目10 %、2室目以降5%にとどめられた。
B 今回の判決で救済を認められた住民数は4951名中4935名、 損害賠償として認容された金額は約27億4600万円にのぼる。
C 判決においては、被告は過去2回にわたり厚木基地周辺の騒音被害 につき違法判断がされているのに、防音工事助成等の周辺対策をなすの みで、「厚木基地周辺の被害解消に向けて本腰を上げて真摯な対応を 取っているようにはうかがわれない」として国に対する厳しい弾劾もな されている。
D 本判決は極めて精密な事実認定・理論構成を示すものであり、この 判決によって、騒音地域下において人が生きるに足りる環境として保障 されるべき水準は示された。そのことを率直に評価したい。
E しかし、われわれが何より望んでいるのは金銭補償ではない。厚木 基地の騒音解消であり、「静かな空」の回復である。40年以上にわた り厚木基地周辺は、激しく変動する航空機騒音被害に苦しめられてい る。
  われわれはまず、本日の判決でも指摘された被害解消への真剣な努力を被告国に求めたい。いたずらに損害賠償につき姑息な争いを続けて 住民らを苦しめることは直ちにやめ、原告らとの話し合いに応じること をわれわれは強く要求する。
   2002年10月16日
                   厚木基地爆音第3次訴訟原告団
                   厚木基地爆音第3次訴訟弁護団
こうした判決が出されても、厚木基地の爆音は止まらず、今も上空を爆 音が響き渡っています。これを何とかしなければ。