第五次厚木基地爆音訴訟

第1回口頭弁論 福田弁護団長意見陳述

5月21日に開かれました第五次訴訟横浜地裁第1回口頭弁論における福田護弁護団長の意見陳述書を、ご本人の許可がいただけましたので、ここに掲載します。

平成29年(ワ)第3397号、平成29年(行ウ)第42号ほか

意 見 陳 述 書

一 本件訴訟の意義について 一

2018年(平成30年)5月21日
横浜地方裁判所第1民事部 御中

原告ら訴訟代理人 弁護士  福田 護

第1 航空基地騒音問題の深刻さ
1 厚木基地は、神奈川県央の内陸部の市街化した地域の真ん中にあります。飛行場、それも軍用飛行場として最悪の立地条件です。地元大和市は、人口密度が県下で川崎市に次ぎ、横浜市をも上回って2番目に高いほどの人口密集地です。厚木基地の騒音影響地域は広大で、南は藤沢市から北は東京都町田市にまで及び、国が生活環境整備法に基づいて「音響に起因する障害が著しい」と住宅防音工事の対象として指定した第一種区域には、2006年の指定時点で24万4000世帯、推定人口70万人が居住し、騒音影響人口は200万人以上と言われます。
その騒音地域で人々は、裁判所も「生活の質を損なう軽視できない被害」「健康被害に結び付き得る深刻な睡眠妨害」等と認定する重大な被害を受け続けてきました。
そもそもこのような市街地の真ん中に、軍用航空基地が存在するということ自体が異常ですが、しかもここでは、その異常な状態が50年、60年にわたって続いてきました。周辺住民がやむにやまれず飛行の差止め等を求めて裁判に訴えたのが1976年9月、今から42年前になります。それでも飛行・騒音状況は一向に改善されず、周辺住民は、第2次、第3次、第4次と繰り返し提訴を重ね、今回がとうとう第5次の訴訟となりました。

2 航空基地騒音訴訟は、現在、厚木基地ばかりでなく、1975年に提訴した小松基地、1976年の横田基地、その次が厚木基地、その後嘉手納基地、普天間基地、岩国基地、そして最近2017年12月に提訴した新田原基地と、全国に広がっています。横田基地は5回目、小松基地と嘉手納基地は3回目、普天間基地も2回目の裁判が係属中で、いずれも多数原告による長期にわたる裁判が続いています。
いま、軍用航空基地における騒音問題は、国家的な重要課題です。

3 なぜこのような事態になっているのか?
一つ目ですが、民間航空機については、かつて大阪国際空港事件その他の騒音訴訟が提起され、その判決を経て、航空法に基づく耐空証明制度等によりエンジンの低騒音化などの音源対策が大きく進んできました。それに対して軍用機は、その戦闘能力等を最優先するため、低騒音化は全く進まず、今でも裸の騒音がばらまき続けられているのです。しかも軍用機の事故率は民間機とは比べものにならないほど高く、周辺住民は絶えず、墜落、落下物等の危険にさらされているのです。
二つ目は、国の無策です。厚木基地については、その騒音等が受忍限度を超えて違法であるとの確定判決が4たびも繰り返されながら、半世紀にわたって国の無策が続いてきました。他の基地についても同様です。
三つ目は、あえて申し上げますが、司法の無力です。これだけ何十年も、何十万人、何百万人という国民・市民が違法状態にさらされ続けているのに、司法は、その差止めを命ずることをとうとうしないまま、放置をしてきたのです。その最たるものが、米軍機の運航は国の支配の及ばない第三者の行為だとして住民の差止請求を棄却し続けてきた、いわゆる「第三者行為論」です。

4 私は先日、日本弁護士連合会の委員会活動の一環として、ドイツとイタリアの航空基地の視察調査に参加してきました。
ドイツのラムシュクイン基地、イタリアのアビアーノ基地は、いずれもNATOを代表する基地であり、ドイツとイタリアはどちらも敗戦国として日本と共通するところがあるのですが、両基地とも森林と草原に囲まれた広大な敷地として所在し、滑走路延長線上の飛行直下に町はなく、基地から車で20~30分位のところに、米軍人・家族も住む地元の市がある、そういう環境です。アメリカでも、やはり基地は、砂漠の中や岬の先端など、人里離れたところにあると聞きます。
冒頭申し上げたような人口密集市街地のただ中に軍用航空基地があるなどというのは、全く世界の非常識であること、実に恥ずべき状態であることを、私たちは一度本気で考え直さなければいけないのではないでしょうか。

5 このような異常、非常識なこの国のあり方を匡正するには、司法の毅然とした対応が、必要不可欠です。

第2 米軍機差止めの課題

1 厚木基地は、米海軍と海上自衛隊が共同で使用しています。元は米軍が専用していましたが1971年に滑走路を含む基地の中心部分が日本に返還され、そこに防衛大臣が自衛隊の基地である「厚木飛行場」を設置して管理し、自衛隊機を運航させるとともに、米軍にも日米地位協定2条4項(b)に基づいて「一定の期間を限って」使用させるようになりました。
厚木基地の騒音問題は、自衛隊機もさることながら、全国の米軍基地と同様、激甚な騒音による被害をもたらしている米軍機の差止めが最大の課題です。

2 ところが米軍機の差止請求については、厚木1次訴訟、横田1・2次訴訟についての平成5年2月25日最高裁判決以来、国が米軍による基地の管理運営権限を制約し、活動を制限し得るとする関係条約及び国内法令の特段の定めはないから、国に対する米軍機の差止請求は、国の支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものであり、主張自体失当として棄却を免れないとの判断が、すべての米軍機騒音訴訟判決で、ひとしなみに採られるようになっています。
この「第三者行為論」は、米軍のやることには国は何も言えない、基地周辺住民はただ堪え忍べというに等しいものであり、日本の基地の有りようの世界的な非常識を追認・放置するものであり、基地周辺住民を見捨てる「棄民」の論理だと言わざるを得ません。それはまた、憲法上保障されているはずの裁判を受ける権利の否定でもあります。

3 しかし、-ここで詳しい話は避けますが一在日米軍基地も、日本の領域主権の及ぶれっきとした日本の領土であり、いかなる条約も米軍の日本国民に対する人権侵害を許容するものではないし、施設・区域内にも日本国法令が原則として適用されると考えるべきものです。
さらに厚木基地についていえば、基地の中枢をなす厚木飛行場部分は、国が設置・管理する日本の飛行場であり、それを地位協定2条4項(b)で一時的に米軍に使わせているだけの関係です。1971年の返還時の政府統一見解によれば、厚木飛行場は「米軍の専用する施設・区域への出入りのつど使用を認めるもの」であり、米軍の厚木飛行場の使用は、完全に日本国のコントロールの下にあるべきものなのです。
最高裁も、それに追随する下級審判決も、地位協定2条4項(b)に基づく設置管理関係、使用関係の問題を正面から捉え、論じようとしてきませんでしたが、2条4項(b)区域はあくまでも日本の主権と管理権が貫かれるべき場所なのだということを、司法は明確にしていくべきです。領域主権の原則からすれば、主権の制限はその国が認めた範囲に厳しく限定して解釈されるべきものであり、その観点からすれば、最高裁判決がいう「米軍の権限・活動を制約し得る関係条約・国内法令の定め」は、地位協定2条4項(b)をはじめとして現に存在するのです。

4 ちなみに、ドイツにおいては、NATO軍地位協定を補足するボン補足協定の1993年改定により、基地内についてもNATO軍の内部事項等を除いてドイツ国法令が適用され、ドイツ政府・自治体の基地内への立入権が認められ、基地外での訓練や空域訓練にはドイツ国の承認を必要とするなどとされています。またイタリアにおいては、NATO軍の基地もイタリア軍司令官が管理権を有し、米軍もイタリアの国内法を遵守しなければならず、米軍の訓練や作戦行動は事前に通知してイタリア軍司令官の認可を得なければなりません。
これらは、日米地位協定の規定とは大きく異なりますが、各国とも、駐留する他国軍隊に対しても自国の主権を確保する努力をし、成果を挙げているのであって、日本においても、「米軍のやることには何も言えない」「国の支配が及ばない」などと米軍の権限や活動を最優先し、その犠牲を国民に押しつけるあり方は根本的に見直されなければなりません。そしてそれを是認してきた司法のあり方も、根本的に変更されるべきものです。

第3 なぜ民事訴訟と行政訴訟の両方なのか

1 私たちは、第4次訴訟の最高裁平成28年12月8日判決では、結局何も解決しなかったと考えています。
従来民事訴訟で差止めを求めてきたのが不適法とされ続けたため、私たちは第4次訴訟において民事訴訟とともに行政訴訟を並行提起し、行政訴訟でようやく、自衛隊機の限られた一部ではありますが、地裁判決、高裁判決において差止めが認められました。
ところが最高裁は、自衛隊機の差止請求についてはそれが行訴法3条7項、37条の4の差止めの訴えとして提起しうることや、「重大な損害を生ずるおそれ」の訴訟要件の充足を認めて適法な訴えだとはしましたが、違法性の判断において防衛大臣の広範な裁量権を認め、その範囲内だとして差止請求を棄却してしまいました。自衛隊機の運航の公共性・公益性等を重視し、将来にわたる自衛隊機の運航が「社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認めることは困難」だと言いました。
私たちは、最高裁のいう「社会通念」とはいったい何なのかと、根本的な疑問と不信を禁じ得ません。確定判決でも違法とされる騒音状態が40年以上続いているのに、さらにその違法状態を将来にわたって継続することを是認するのが、司法の「社会通念」なのですか。世界に類を見ない人口密集地のただ中にある航空基地、市街地の低空を戦闘機が屋根をかすめ、奇怪な形状をしたオスプレイが飛び回る、そんな「世界の非常識」がこの国日本では「社会通念」なのでしょうか。
国民の権利の実現はこれまで、行政訴訟における「重大な損害を生ずるおそれ」その他の訴訟要件のハードルの余りの高さに悩まされてきましたが、ようやくそれをクリアしたと思ったら、今度はこの違法性判断の「裁量」の余りの広さに絶望せざるを得ませんでした。
行政訴訟とは、平成16年の行政事件訴訟法改正を経てなお、何と国民の権利の救済に縁遠いものなのでしょうか。

2 だから私たちは、今回も、改めて、民事訴訟と行政訴訟の両方を提起しました。そして、その請求の趣旨も、民事訴訟においては一定の時間帯の騒音及び一定のW値の騒音の居住地への到達という結果の禁止を求めるものとし、また、その実現までの米国との外交協議を求めることとしました。また行政訴訟においては、一定の方法・程度による運航の差止めのほかに、原告らが居住地において一定のW値の騒音を被らない権利の確認を当事者訴訟として求めることとしました。

第4 結語

繰り返しますが、本件訴訟は、人口密集地のただ中に軍用航空基地が存在するという世界の非常識の中で、半世紀にもわたって司法も違法と認める航空機騒音に住民がさらされ続けてきているという、誠に異常な事態の解決を求めるものです。そしてかかる軍用航空基地騒音問題は、米軍機についても自衛隊機についても、現在の日本の国全体として解決を迫られている重大な課題なのです。
私たちは、裁判所が、私たちと一緒に、この重要な問題について、いかなる民事訴訟が、あるいはいかなる行政訴訟が可能なのか、そしていかなる判断を示すことが司法のあるべき姿なのかを、正面から向き合って考えていただきたい、心からそう訴えたいと思います。
以上