第五次厚木基地爆音訴訟の意義と概要

第五次厚木基地爆音訴訟の意義と概要
                  弁護団長 福 田  護

1 第四次訴訟の到達点と第五次訴訟の意義

第四次訴訟の地裁と高裁で、私たち厚木基地周辺住民は、これまで損害賠償しか認められてこなかった航空基地騒音訴訟において、ごく部分的ではありましたが、全国で初めて、自衛隊機の夜間の飛行差止めを命ずる判決を勝ち取りました。それは、1976年9月に第一次提訴をして以来の長い道のりでした。

しかし、昨年12月8日の最高裁判決は、その自衛隊機飛行差止めも、そして高裁が期限付きで認めた将来の損害賠償請求についても、高裁の判決を覆し、私たちの請求を棄却するものでした。最高裁の判決は、周辺住民の人々の騒音被害の深刻さを認め、そしてこのまま放置すれば重大な損害を生ずるおそれがあることも認めながら、その被害よりも、自衛隊機の運航の「高度の公共性、公益性」を優先させるものでした。訴訟団と弁護団は、即日、抗議の声明を発表し、その場で第五次訴訟に取り組むことを宣言しました。

そして私たちは今、この不当な、本当に理不尽で不当な最高裁判決を乗り越えるために、第四次訴訟を上回る原告団を展望できる体制を準備し、ここに第五次訴訟原告団を結成することになりました。関係者の皆さまの努力に、深甚な敬意を表します。

2 第五次訴訟は何をめざすか

第五次訴訟も、第四次訴訟と同様に、ふつうの民事訴訟と、もう一つ行政訴訟という、二つの訴訟を起こします。これは、最高裁が、自衛隊機の差止請求は行政訴訟ならともかく民事訴訟で請求するのは不適法だと言っているからですが、私たち弁護団は(多くの学者と同様に)この最高裁判例はおかしいと思っています。そして両方の訴訟を起こすことによって、裁判所が少なくともどちらかで差止めの可否を判断しなければならないことになるわけです。

もう一つ、最大の問題は米軍機の差止めです。最高裁をはじめ地裁も高裁も、米軍機の差止請求は、被告国の「支配の及ばない第三者の行為」だから、その請求は失当だと判断してきています。他の、横田、嘉手納、普天間等の米軍基地についても、おしなべて同様です。しかし、日本の国土の中で、日本の主権も法律も及ばず、市民の人権が侵害されているのを国が放置してよい、などというはずはありません。ここで裁判所が、米軍に対してもモノを言わなければ、法治国家が成り立ちません。

そこで、私たち弁護団は、第四次訴訟までの経験を踏まえ、第五次訴訟では次のような請求を立てることとしました。

まず民事訴訟ですが、一つは、第四次までの差止請求の内容を少し変えて、自衛隊機・米軍機を問わず、「一定の騒音を原告らに到達させてはならない」という請求にします。「一定の騒音」とは、夜8時から翌朝8時までの騒音と、年間を通じてWECPNL75を超える騒音はダメ、というものとします。また、全く新しい請求ですが、そのような騒音禁止の実現のために、国が米国と外交交渉を行うべきことを求めたいと思います。

次に行政訴訟ですが、柱となる請求は第四次と同じで、防衛大臣に対して、自衛隊機・米軍機とも、夜8時から翌朝8時までの運航、WECPNL75を超えることとなる運航をさせないことなどを求めます。また、もう一つ新たな請求として、防衛大臣による厚木飛行場の管理運営によってWECPNL75を超える騒音を被ることのない権利を原告らが有すること(その騒音の違法なこと)の確認を求めようと思います。

もちろん私たちは、この違法な騒音による被害を国に償わせるため、損害賠償の請求をします。その請求額も増額して第四次までの倍額とし、原告全員1か月当たり4万円を請求することにします。第四次厚木基地判決、普天間基地判決、嘉手納基地判決などの賠償額増額の趨勢を踏まえ、多額の損害賠償という面からも国の責任を追及します。

3 国の違法は正されなければならない

これまで約40年、被告国は、第一次訴訟から第四次訴訟まで、裁判所の確定判決でWECPNL75を超える騒音は違法だとの宣告を、繰り返し繰り返し受けてきました。国民に法律を守らせる立場の国が、違法なことをしていては示しがつきません。ましてや、裁判所から違法の是正を繰り返し求められながら、その是正をしないなどというのは、あってはならないことで、まさに異常事態です。「防衛」や「外交」も、国が違法を続ける正当化根拠にはなりません。このような事態に対しては、まさに裁判所の差止命令が必要不可欠であり、司法がその役割を発揮すべきなのです。

さて、第五次訴訟の提訴と訴訟遂行に向けた体制が整いつつありますが、厚木基地をめぐる情勢は、流動的です。

一つには、艦載機の多くの岩国基地への移転が予定されています。厚木基地の騒音が減少すれば、訴訟中に騒音コンターが見直されるなどの変化も考えられます。では本当に静かになるかというと、私たちの取組みにもよりますし、一概には言えません。そもそも岩国基地自体、騒音被害と事故の危険の軽減のためとして滑走路の沖合移転がなされたはずなのに、2010年に工事が完成したとたん、厚木の艦載機の移転だけでなく、オスプレイの訓練拠点化、沖縄からの空中給油機の移転、アメリカから新たにF35ステルス戦闘機の配備などにより、いまや極東最大の航空基地として変貌しつつあります。厚木基地周辺住民も、艦載機の騒音のたらい回しでよいのかという問題だけでなく、将来に向けて油断はできません。静かな空を実現するには、絶えざる努力が必要です。この第五次訴訟をその一環としたいと思います。

さらに、北朝鮮をはじめとする国際情勢の緊迫化の問題があります。トランプ政権と安倍政権のもとで、そして憲法9条の安全弁を取り壊してしまった安全保障法制のもとで、この国が本格的な戦争準備体制に突き進む危険すら杞憂とはいい切れません。万一の時、厚木基地や横須賀基地は、真っ先に敵国の攻撃対象にされることが危惧されますし、少なくともそのような方向に国が向かうとき、厚木基地の強化拡大が心配されます。オスプレイの頻繁な飛来にも、警戒が必要です。

行政権が暴走し、国会が国権の最高機関としてそれを抑制する機能を果たさない状況のもとで、司法こそが、これにブレーキを掛ける役割を果たさなければなりません。そうでないと、この国はどこへ行ってしまうか分からず、私たちの生活も根底から破壊されてしまいかねません。

私たち自身の権利を実現し、子や孫の世代に静かで平和な空を引きつぐためにも、この裁判を全力で闘いましょう。